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使いにくいほうがよいこともある

エッセイ, Mar 2, 2016

一般的には、文章は読みやすいほど良い。ところがUIでは、あえて使いにくくすることに意味が出ることもある。例えばプリンストン大学で行われた「読みにくさ」に関する研究(PDF)は興味深い。読みにくいフォントを使うと、文章内容に関する長期記憶が強まるというのだ。

読みにくさで記憶力アップ?

実験では、200人の学生に「読みやすいフォント」で作られた教材と、「読みにくいフォント」で作られた教材をランダムに配布したところ、「読みにくいフォント」で学習した生徒の成績が向上したという。

なぜフォントを読みにくくすると、記憶されやすくなるのだろう?

これは脳の仕組みで説明できる。行動ファイナンスでノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンは、脳の機能は2種類あると説く。直感的を得意とするシステム1と、論理的な処理をするシステム2だ。

読みやすい文章を流し読みするとき、脳では直感的や自動処理が得意なシステム1が主役となる。このため記憶に残りにくい。一方で読みにくい文章では、文字の認識や内容のチェックに注意や集中、思考が得意なシステム2が主役となる。このため記憶されやすくなる。

フォントの読みにくさが、脳の認知にハッキングをしかけているのだ。

このように、インターフェースは使いやすければ良いというものではない。状況によっては、あえて使いにくくすることにも意味がある。

使いにくさを実践する

それでは「使いにくさ」をインターフェースとして応用するには、どうすればよいだろうか? 使いやすさの応用は、大きく3つに分類できる。

1つ目は、使いにくさを認知トリガーとして使うことだ。ユーザーの注目を喚起したり、脳のモードを切り替えるために使いにくさを応用する。フォントの例がこれにあたる。

2つ目の使い方は、ユーザーを何かから遠ざける使い方だ。機能の階層を深くしたり、位置を悪くすることで、特定の操作を防ぐことができる。正しい使い方としては、重要な行為と不必要な行為の重み付けに用いられる。悪い例としては、サービスの退会処理をわざとメンドウにし、退会率を下げることがある。

3つ目、特殊な使い方としては、使いにくさを「やりがい」に変換することがある。例えばゲームによくある足場が滑る氷ステージは、使いにくさをエンターテイメントに変換した好例である。マラソンや筋トレ、あるいはレトロカーのメンテナンスまで。苦痛はフレーミングで、価値に変えることもできるわけだ。

使いにくさの注意点

もちろん使い方には注意も必要だ。

確かに、英語の教科書をComic Sansにすれば、生徒の成績は上がるかもしれない。ただし、このロジックを安易にWebで試すのは、止めたほうがよい。なぜならば、このフォントの話には前提条件がある。それはユーザーが使わざるを得ない環境が必要という点だ。

一方で、ネットには膨大なコンテンツがある。読みにくい文章を目にしたユーザーは、脳のシステム2が起動する前に、ページを離脱するだろう。使いにくさを利用するには、強制力のあるシチュエーションでの利用を考えたほうがよいだろう。学校の授業、政府機関の書類などでは有効に機能すると思われる。

使いにくさは搦め手として便利なツールだ。だが単に使いにくくするだけでは、ユーザーは逃げてしまう。用法用量を守って、正しく活用したい。

まとめ

  • 使いにくさで、脳の注目を喚起することができる。
  • 使いにくさで、行うべきでない動作からユーザーを遠ざけられる。
  • 使いにくさは、やりがいに置き換えてしまうば価値となる。
  • 使いにくすぎれば、やっぱりダメである。
インタラクション・デザイナー。THE GUILD代表。fladdict。
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